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東京高等裁判所 昭和44年(ラ)441号 決定

抗告人 増田勝治 外四名

相手方 株式会社難波鉄工所 外八名

主文

原決定中相手方ら(三光デイーゼル工業株式会社を除く。)に関する部分を取り消す。

新潟地方裁判所長岡支部昭和四二年(ヨ)第四七号仮処分申請事件について抗告人らが相手方ら(三光デイーゼル工業株式会社を除く。)に対し、同年五月四日新潟地方法務局長岡支局に供託した金二〇万円の担保(供託番号昭和四二年度金一八九号)は、これを取り消す。

理由

抗告人らは主文同旨(ただし、金四〇万円の担保というのは金二〇万円の担保の誤りと認める。)の申立をし、その理由として別紙記載のとおり主張した。

本件記録および新潟地方裁判所長岡支部昭和三五年(ワ)第一八五号、第三一四号代表取締役地位存在確認等本訴ならびに反訴請求事件の一件記録によると次の事実を認めることができる。

すなわち、申立人増田勝治は、昭和三四年五月二〇日申立人柏原正雄、同本間弘とともに選任された原審相手方三光デイーゼル工業株式会社(以下三光デイーゼルという。)の取締役であり、かつ、代表取締役であるところ、右申立人ら三名の取締役不知の間に昭和三五年三月一四日付で右申立人ら三名が取締役を辞任した旨の辞任届書が作成され、新潟地方法務局長岡支局において、取締役辞任および申立人増田勝治が資格喪失により代表取締役を退任した旨の登記を経由していること、三光デイーゼルは取締役および監査役が辞任し代表取締役が退任したことを前提に、申立人増田勝治にはむろん他の株主に対する招集手続もとることなく、相手方原権蔵ほか四名の一部株主をもつて昭和三五年三月一四日臨時株主総会を開き、相手方遠藤民一、同原権蔵、同阿部恒太郎ほか五名を取締役に選任し、同日取締役会を開催して右遠藤民一を代表取締役に選任し、同月一六日右法務局支局において取締役、代表取締役等の就任登記を経由していること、および、右のように新たに選任された取締役をもつて同月一五日取締役会が開かれ、三光ディーゼルの発行済株式の総数、発行済額面株式の数を各六、〇〇〇株、資本の額を金三〇〇万円に変更する旨の決議がされ、同月一八日右法務局支局においてその登記を経由していることをそれぞれ理由に、相手方三光デイーゼルを被告として同年六月七日新潟地方裁判所に(一)申立人増田勝治の取締役辞任、代表取締役退任の各抹消登記手続、(二)同申立人が三光デイーゼルの取締役および代表取締役関係にあることの確認、(三)三光ディーゼルの同年三月一四日付相手方遠藤民一ほか八名の取締役、監査役を選任した臨時株主総会の決議の取消し、(四)新潟地方法務局長岡支局において同年三月一六日付をもつてした前項の取締役、監査役、および代表取締役遠藤民一の就任の各登記の各抹消登記手続、(五)同法務局支局において同年三月一八日した三光デイーゼルの発行済株式の総数、発行済額面株式の数を各六、〇〇〇株資本の額を金三〇〇万円と変更する旨の登記の抹消登記手続を各求めて訴を提起した。同事件は同裁判所長岡支部に回付になり(同支部昭和三五年(ワ)第一八五号)、同支部で審理され昭和三八年一二月三日同申立人の請求は全部棄却された。そこで同申立人は当裁判所に控訴を提起し(当庁昭和三八年(ネ)第三一五五号事件)、請求の一部を変更し、(一)同申立人が三光デイーゼルの取締役および代表取締役の権利義務を有することの確認、(二)相手方遠藤民一、同原権蔵、同阿部恒太郎ほか五名を取締役、申立外丸山正二を監査役に各選任した旨の三光デイーゼルの昭和三五年三月一四日付株主総会の決議等の存在しないことの確認、(三)三光デイーゼルの発行済株式の総数、発行済額面株式の数を各六、〇〇〇株、資本の額を金三〇〇万円と各変更する旨の三光デイーゼルの昭和三五年三月一五日付取締役会の決議の存在しないことの確認を各求め、昭和四二年二月二一日請求を全部認容する勝訴判決を得た。

そして、申立人らは原審相手方三光デイーゼルと右の新株発行に関する取締役会の決議に基づき株式の引受けおよび払込みをしたと主張している相手方らに対し、右判決が確定するまでの間相手方らが株主権を行使することは徒らに不存在または無効の株主総会の決議を重ねることになるので、それを避けるためという理由をもつて、右訴訟事件を本案として昭和四二年四月二九日新潟地方裁判所長岡支部に「相手方らは三光デイーゼルの株主権を行使してはならない。申立人らが三光デイーゼルの株主権を行使することができる。三光デイーゼルは相手方らに株主権の行使をさせてはならず、申立人らの株主権の行使を許さなければならない。」とする仮処分申請をし(同支部昭和四二年(ヨ)第四七号)、これは同年五月四日申立人らより相手方ら(原審相手方三光デイーゼルを含む。)に対し金二〇万円の保証(新潟地方法務局長岡支局昭和四二年度金第一八九号)を立てることによつて認容された。これに対し相手方株式会社難波鉄工所、同遠藤民一、同金沢豊吉、同阿部恒太郎、同村山正治、同志賀喜一から異議の申立がされたけれども、右異議申立人の関係で右仮処分決定が認可されたので、異議申立人である相手方らは当裁判所に控訴を提起したところ(当庁昭和四二年(ネ)第二四一六号)、昭和四三年九月二〇日当裁判所において原判決および新潟地方裁判所長岡支部昭和四二年(ヨ)第四七号仮処分決定のうち異議申立人である相手方らを被申請人とする部分が取り消され、この部分の仮処分申請が却下されてこの判決は確定し、さらに同年一〇月一六日前記訴訟事件(当庁昭和三八年(ネ)第三一五五号)の判決もまた確定したので、同支部は非訟事件手続法第一三九条第八号の規定に則り新潟地方法務局長岡支局に対し新株発行決議不存在確認判決の確定を理由として三光デイーゼルの発行済株式総数および資本の額について回復登記を嘱託した結果、その旨の登記を経由した。

抗告人らは前記抗告人らが相手方らを被申請人としてした仮処分申請事件における保証の供与は、右のような経過によつて民事訴訟法第一一五条第一項にいう担保の事由が止んだから担保取消決定を求めるというのである。ところで、抗告人らが右仮処分事件の本案訴訟であると主張する前記当庁昭和三八年(ネ)第三一五五事件は、三光デイーゼルの新株発行に関する取締役会の決議の不存在確認を求めたものであつて、かかる場合に本来なさるべき新株発行を無効とする請求がなされたものではない。そしてこのような取締役会の決議不存在確認訴訟の判決の効力が右訴訟事件の当事者でない抗告人増田勝治を除く抗告人ら(抗告人柏原正雄、同本間弘は右訴訟事件に参加しているが、同人らは取締役会の決議不存在確認を求める請求はしていない。)および相手方らに及ぶとする根拠を見出すことはできないから、右訴訟事件において抗告人増田勝治の勝訴判決が確定したとしても、これをもつて直ちにその余の抗告人らにおいて、また、三光デイーゼルを除く相手方に対して本案訴訟につき勝訴判決が確定したものということはできない。しかしながら、右の新株発行に関する取締役会決議不存在確認訴訟は、当初新株発行に関する登記事項の抹消登記手続請求の訴として新株発行無効の訴の出訴期間内である新株発行後六月内の昭和三五年六月七日に提起され、かつ、その勝訴判決の理由として確定された事実は同時に新株発行の無効事由を構成するものといいうるし、登記簿上も、また記録によると実体上も、すでに新株発行の無効判決があつたと同様に扱われている事実関係を考えると、結局は抗告人らのした前記仮処分によつて相手方らに一応損害賠償請求権は発生しないものと認めるのが相当である。

してみれば、右の事実関係のもとにおいては、本件担保につき、すべての関係当事者間において担保の事由が止んだものというべきであるから、これと異る原決定部分を取り消し本件担保を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 青木義人 高津環 浜秀和)

別紙

抗告理由

第一点

一、本件申立は民事訴訟法第一一五条第一項に基くものである。即ち担保を供した抗告人らが、担保の事由止みたることを証明して、担保取消の決定を求めるものである。

担保の事由止みたることは、本件仮処分は東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第三、一五五号の判決中「被控訴会社(三光デイーゼル工業株式会社)の発行済株式の総数及び発行済額面株式の数を各六、〇〇〇株、資本の額を金三百万円と各変更する旨の被控訴会社(三光デイーゼル工業株式会社)取締役会の昭和三五年三月一五日の決議は存在しないことを確認する」との部分を本案とする仮処分申請であるところ、右判決が確定した即ち本案訴訟が勝訴確定したので、担保の事由が止んだのである。

右判決の確定したことは、最高裁判所の判決確定証明により証明したところである。

二、本案訴訟の確定の証明は担保の事由が止みたることの証明に該当すると信ずる。

昭和一七年(ク)第一、〇四一号、同年七月三一日第三民事部決定(民集第一四巻一、四五七頁)に「仮処分債権者が本案勝訴の確定判決を得たるときは特別の事情のない限り仮処分の担保はその事由止みたるものと認むるを相当とす」とあります。右に所謂特別の事情とは仮処分決定当時は被保全権利が不存在であつたが、判決当時これが存在するに至つたというような場合を指すものと信ずる。

又担保の事由止みたることの証明は賠償債権不存在の蓋然性を認むべき事情の証明であれば十分で、相手方に賠償債権が絶対に発生しないことまでを証明する必要はないと信ずる。

三、然るに原決定が「前記本案訴訟(東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第三、一五五号のこと)の申立人増田、同柏原、同本間勝訴の判決は本件仮処分の担保取消決定の事由たる担保の事由止みたることに該当するとはなし難いといわなければならない」としたのは明かに不法である。

四、又原審は「仮処分異議事件の控訴審では前記のように、控訴の申立を理由ありとして仮処分異議事件において、当裁判所がなした仮処分決定を認可する旨の判決を取消すと共に、同裁判所の仮処分決定中本件相手方等中前記仮処分異議申立人兼控訴人である株式会社難波鉄工所、遠藤民一、金沢豊吉、阿部恒太郎、村山正治、志賀喜一に対する部分を取消し、その部分の仮処分申請を却下する旨の判決がなされ、それが確定したのであるから、右の者等の関係では、本件仮処分による損害賠償債権が発生しないとはいい難いといわなければならないし、右以外の相手方遠藤正、同原権蔵、同株式会社原鉄工所も本件仮処分につき異議申立をしてはいないけれども、同様損害賠償債権が発生しないとはいい難い」として抗告人の申立を却下した。

然し仮処分における担保に対する被担保債権は、当該仮処分の本案訴訟において、本案訴訟の目的たる請求権が存在しないと判決せられた場合に生ずる損害賠償債権である。(菊井、村松民事訴訟法一の三七三頁及び三七六頁)

依つて担保の事由が止んだか否かは、仮処分に対する本案訴訟の結果についてのみ論ずべきである。

而して本件の場合は、前記判決の確定により三光デイーゼル工業株式会社においては、増資に関する取締役会の決議が不存在である。この決議が不存在である以上右不存在決議によつては増資は行われず、何人も増資株主となることがないので仮処分債務者等は終始一貫株主となつた事実のないことが右判決によつて確定したものである。

次に仮処分異議事件につき相手方が勝訴したことについては、裁判所が敗訴者に訴訟費用の負担を命じているのであるから、それ以外に相手方らに特別の損害が発生する道理はない。

何となれば、抗告人等の本案訴訟は勝訴確定したのであり、従つて本案訴訟の提起についても、その保全のための仮処分申請についても抗告人等には相手方らのその責を問われるべき何等の故意過失はないのであるから、仮処分訴訟の結果を以て本件申請却下の理由としたのは不法である。尚仮処分事件については、上訴が許されないので抗告人は上訴できなかつたが、その判決理由には幾多の不法がある。その不法の点は末尾に記載する。

第二点

一、原決定は理由の四、において

右相手方等が株主権を行使する前提となつた新株発行に関する昭和三五年三月一五日の三光デイーゼルの取締役会決議が前記本案訴訟で不存在を確認せられたけれども、

取締役会決議無効ないし不存在の勝訴判決には商法上何等の規定がないから対世的効力は否定せらるべきであるところ、右相手方等が右本案訴訟の当事者になつていないことは前記の通り明かであるから、本案訴訟の効力は及ばないというほかないし、更に、本案訴訟で右新株発行に関する取締役会の決議は不存在であると確定されはしたが、本件記録によれば、既にその前に、三光デイーゼルは右取締役会の決議に基き新株を募集し、右会社以外の相手方等が額面株式四、〇〇〇株の引受けをし、同年三月一六日各株の払込みをなしたとして、同月一八日その旨の登記を経由していることが認められるのであるから、右新株発行に関する取締役会決議が本案訴訟で無効であるとされても、別個に新株発行無効に関する訴を提起しない限り、右四、〇〇〇株の新株発行に伴う右相手方等の株主たる地位は前記本案訴訟の判決により影響を受けるものではない、

というべきであると判示したが悉く失当である。

二、取締役会決議無効ないし、不存在の勝訴判決には商法上何等の規定がないから、対世的効力は否定せらるべきであるとの点について。

会社成立後株式を発行する場合の発行事項は取締役会がこれを決する。(商法第二八〇条の二)従つて、会社成立後株式を発行する場合の取締役会の決議は新株発行の条件であつて、その決議の不存在は新株発行の前提を欠き、その不存在は何人からでも、何時でも、その不存在の主張ができることは民法及び民事訴訟法の一般理論によつて明かである。

取締役会決議不存在の訴については、株主総会不存在の場合と同様商法上特別の規定はないが、この訴に対する判決は形成判決で訴訟当事者に非ざる株式申込人に対してもその効力を及ぼす。(昭和六年(ク)第一二〇号、同年二月二三日第一民事部決定、民集第十巻八二頁)増資新株発行に関する取締役会不存在確認の判決には決議無効確認の訴に関する商法第二五二条を準用すべきで(福岡高等裁判所昭和二八年(ネ)第一二八号、同三〇年一〇月一二日第一民事部判決、高民集第八巻五三五頁)増資新株発行の取締役会決議不存在の確定判決は対世的効力があり、その判決の結果は登記事項となる。

さればこそ新潟地方裁判所長岡支部は、前記東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第三、一五五号事件の確定判決に基き非訟事件手続法第百三十九条第八号の規定に従い、新潟地方法務局長岡支局に登記嘱託の手続をとり、昭和四四年四月二一日「昭和四三年一〇月一六日東京高等裁判所新株発行(昭和三五年三月一六日)決議不存在判決確定、発行済株式の総数二、〇〇〇株金百万円」と回復登記をした。

三、相手方等が本案訴訟の当事者になつていないから本案訴訟の効力が及ばないとの点について。

増資新株発行についての取締役会決議不存在の確認判決は対世的効力を有するので、本案訴訟の当事者でない相手方にも及ぶことは前項記載のとおり。

四、会社が新株を募集し、相手方等が株式引受けをし、払込みをしたとしてその旨の登記を経由しているから、本案訴訟の外に別個に新株発行無効に関する訴を要するとの点について。

増資新株発行に関する取締役会が不存在で新株発行の実体がなくただ新株発行による登記事項のみが存するにすぎないときには、商法第二八〇条の一五の条文にかかわらず、新株発行無効の訴によらず何人からも、何時でも、その不存在を主張できることは通説であつて異論を見ない。

既に増資新株発行に関する取締役会の決議不存在の判決確定により非訟事件手続法第一三九条によりその旨の登記がなされた以上別個に新株発行無効に関する訴を提起する必要もなければ、訴訟上の利益もなく、かゝる訴は許されない。

第三点

一、原決定は仮処分異議事件において東京高等裁判所昭和四二年(ネ)第二、四一六号判決が確定したことを以て申立却下の理由としているが、これは該判決を精読しないことによる誤りである。

右判決はその理由において(七丁裏)「本件の如き場合は本案訴訟の被告たる会社のみを被申請人として発行の新株すべてにつき本案訴訟の判決確定に至るまで株主総会においてその議決権を行使させてはならない旨の仮処分を求むれば足るものというべく、それ以上に株式を引受けた個々の株主に対しては仮令これを会社と共に被申請人とするとしても、上記趣旨の仮処分は求められない(積極的意味における必要性を欠く)ものと解するを相当とする」と判示している。

その判示は新潟地方裁判所長岡支部昭和四二年(ヨ)第四七号仮処分決定の主文「被申請人三光デイーゼル工業株式会社は第一項の株主(被申請人株式会社難波鉄工所、同遠藤民一、同遠藤正、同原権蔵、同株式会社原鉄工所、同金沢豊吉、同阿部恒太郎、同村山正治、同志賀喜一)としての権利を行使させてはならない」との仮処分、即ち右判決に所謂「本案訴訟の被告たる会社のみを被申請人として発行の新株のすべてにつき本案訴訟の判決(東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第三、一五五号)確定に至るまで株主総会においてその議決権を行使させてはならない旨の仮処分」で十分であつて、被申請人等個々の株主を被申請人としたのは蛇足であるというに帰する。結局右判決は本件の如き(増資新株発行に関する取締役会決議不存在の)場合には本案訴訟の被告たる会社のみを被申請人として株主権行使禁止の仮処分をすれば足り(保全の目的を達し)、個々の株主にその権利行使を禁ずる必要はないというのである。

従つて抗告人等に本案請求権がないとか、相手方等に株主権ありというのでもない。相手方等の株主権行使禁止を求めるのは理由があり必要があるが、その保全方法が過剰というにある。

右仮処分異議事件においては抗告人等は主文において敗訴しているが、理由においては抗告人等の被保全権利が認められているので、右本案訴訟の確定により抗告人等の権利が確定した以上相手方等の権利の存在は否定せられるに至つたのである。

依つて原審が右仮処分異議事件の判決存在を以て抗告人等の担保取消決定を求める権利を否定する事由としたのは不法である。

相手方等の株主権行使は新潟地方裁判所長岡支部昭和四二年(ヨ)第四七号仮処分決定の主文第三項によつて禁止せられているので、主文第一項の禁止がなくても足るのであるから、主文第一項により相手方等に損害が発生する道理はない。

二、尚一言附加したいのは右仮処分異議事件の判決理由の誤りである。右控訴審判決中に「三光デイーゼル工業株式会社は右決議に基いて、新株を募集し、控訴人等六名及び訴外遠藤正、原権蔵、株式会社原鉄工所において額面株式四千株の引受があり、同年三月一六日各株につき払込みを了し、同一八日その旨の登記を経由しているのであるから、その発行に関する上記決議が本案訴訟において不存在と確定されても、別に新株式発行無効の訴を提起しないかぎり、右四千株の新株の発行は、これを無効とするに由ないものといわなければならない。(商法第二百八十条ノ十五、十七及び最判昭和四〇年六月二十九日民集第十九巻第四号千四十五頁参照)すなわち上記本案訴訟の判決の既判力は、それがそれ自体対世的効力(商法第百九条参照)をもつとしても、控訴人らの上記株式の引受による株主たるの地位にまで直接判定しているのではないというべきである」とあるが、その所論誤れることは抗告理由第二点において述べた通りである。

尚最判昭和四〇年六月二九日民集第十九巻第四号千四十五頁の判決は本件に適切でない。

何となれば、右判決は新株券が発行済の場合に関する判示で、本件は新株券が未発行の場合であるからである。

新株券未発行のことは本件仮処分に対する新潟地方裁判所長岡支部昭和四二年(モ)第一五六号判決第七丁表終から二行目参照。

尚新株の発行とは会社が商法第二二五条所定の形式を具備した文書を株主に交付することをいうので(昭和三九年(オ)第一、四一〇号、同四〇年一一月一六日第三小法廷判決、民集第十九巻一、九七〇頁)新株発行に関する取締役会の決議や申込みや引受行為、払込は新株券の発行に入らない。

又判決は「そうだとすると――控訴人らの本件仮処分の申請は、右の点において認容すべからざるものといわざるを得ない」というが、そうだとすると、という前提が誤つていること前記の通りである。

右判決中に「本件のごとく、発行手続に瑕疵あることを主張してその手続に基く株式について株主としての権利の行使を禁止する旨の仮処分を求める場合に特定の株主を被申請人とすることを得るものとすると――仮処分債権者(申請人)の恣意による一部株主についての議決権行使を止める手段を是認することにもなりかねない」とあるが、本件は新株式四千株全部についての仮処分であること一件記録に明瞭である。又債権者が如何なる債務者を相手方として仮処分申請をすべきかは債権者の自由に属するものと思料する。

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